Chantry re-styling とは、19世紀初頭の英国において、王の肖像表現を従来の理想化・象徴重視の様式から、より彫刻的で量感を重視した新様式へと刷新しようとした造形的転換を指す呼称である。この動きは、当時の英国を代表する彫刻家 Francis Chantrey の美学的影響を背景としており、特に ジョージ4世 期の王肖像制作において顕著に現れた。
なお、「Chantry re-styling」という言葉は、当時の公式制度名ではなく、後年の研究やオークション解説などで用いられる、造形傾向を示す便宜的な用語である。
王肖像表現における転換点
18世紀後半までの英国貨幣における王肖像は、理想化された顔貌、線的で比較的平面的なレリーフ、王冠や称号による象徴性の強調を特徴としていた。これに対し、Chantry re-styling が志向したのは、実在感を伴う頭部表現、面構成と量感を重視した彫刻的造形、そして象徴よりも「顔そのもの」によって王権を表現するという考え方である。
これは、王を制度や記号として示すのではなく、造形として成立させようとする、より近代的な王権表現への移行を意味している。
Francis Chantrey の影響
Chantrey 自身が貨幣用の金型を制作したわけではないが、彼が確立した肖像彫刻の美学――理想化しすぎず、人物としての存在感を保つ表現――は、当時の造幣局彫刻家たちに強い影響を与えたと考えられている。このため Chantry re-styling は、「Chantrey 的な彫刻観を貨幣肖像に応用しようとした試み」を総称する概念として理解される。
貨幣制作の現場での Chantry re-styling
Chantry re-styling は、一度の決定で完成形に移行したものではない。造幣局では、肖像の量感や光の回り方、実際に打刻された際の見え方を検証するため、段階的な試作が繰り返された。この過程で、単面(Uniface)パターン、素材違いの試作、プルーフ仕上げによる検証打ちなどが行われたと考えられている。
1820年代半ばのジョージ4世クラウン試作群は、こうした Chantry re-styling の検証工程を示す代表的な例とされる。
本コインとの関係
Chantry re-styling は、本コインにとって単なる時代背景ではない。単面形式によって肖像のみを厳しく検証している点、量感を重視した頭部表現、完成時の視覚効果を意識した試作素材の使用などは、新しい王肖像が成立し得るかどうかを見極めるための具体的な造形的実験と理解できる。
この意味において Chantry re-styling は、本コインの製作目的そのものに直結する造形思想である。
要点まとめ
・Chantry re-styling は王肖像を彫刻的・量感重視の様式へ刷新しようとした造形的転換を指す
・Francis Chantrey の彫刻美学が思想的背景にある
・公式制度名ではなく、後年の研究・解説で用いられる呼称
・単面パターンや試作貨は、この再様式化の検証工程と深く関わる